星の見えない夜だからこそ、星を探す

 久々に私のコンプレックスの塊だった親友に会った。その話はまた書こうか。

 でも今回書きたいのはドクターの話である。かつての私のドクター。私のことをよく理解していると思っていたドクター。

 

 変なドクターだった。

 なんかボソボソ自分の意見を長々と話すし、いきなり謎のタイミングでなにかに一人納得してたりする。気づいたら患者に仕事を手伝わしてるし、なんか心理士も付けずに全て一人で仕事をこなそうとし始めたし、最後のほうは破滅の匂いを感じたけど。

 

 しかしドクターは、確かに私の能力を高いと褒めてくれた数少ない他人だった。

 

 私は学歴も高くないし、喋り方とかでも多分あまり高い知性とかは感じさせない、平凡な人間である。そんな私の知能を高く評価してくれたドクターには感謝している。

 自分としては当たり前のことを話しても、分析しても、ドクターは感嘆しながら、時に興奮しながら言った。「なんで君はそんなに能力が高いんだ!」

 

 ある時は事務のお姉さんと並べられて作業をさせられてそう叫ばれ、若干雑に扱われた事務のお姉さんの姿を見てドクターに対して「ええ・・・」みたいな戸惑いも覚えたが。

 

 ことあるごとにドクターは私の脳みそを褒めた。おかげでちょっと自己肯定感が上がった。

 ドクターは間違いなく、私の脳みそが大好きだった。なぜか。いまだによくわかんないけど。

 

 同時にドクターの不思議の言葉が増えた。

「君の朗らかなところも弱いところも知ってるからね」

「君が元気だと僕も嬉しいんだ」

「君とは一緒になれない。僕には資産がないから」

「僕が稼ぐよ!」

 

 なんかもうわかんない。意味不明。

 

 同時期に、ドクターの言動が変わり始めた。

 私自身がどう生きるかよりも、お嬢様な私を人生に訪れる苦難からどう守るか、に変わってきて、その過干渉に私は窮屈さを感じた。

 

 私は、苦難のない平坦な人生なんてつまらないと思っている。人生にはいいときも悪いときもある。泣いたって笑ったってそれが人生だもの。言葉を借りるなら、「星の一つも見つからない、雷に満ちた日があってもいい」のだから。

 

 冒険をさせてくれない、守るだけになってしまったドクターと別れを告げるときが来たと思い、新しい病院を見つけた。最後に会ったドクターは、酷く混乱していた。

 

 その新しい先生に向けた紹介状、中身怖いなーと思っていたが、女医さんは中身を教えてくれた。「あなたの話すあなた自身とは随分違うけど」と言いながら。

 

 私はお嬢様育ちで浮世離れしていて、現実から目を背けてばかりいる。現実が苦手でたまに観劇という現実逃避をし、自分から離れたのは自分が少しきついことを言ったので、それから逃げたのだろう、と書かれていた。もっといろいろ書いてあったけど、正直どうでもよい空想お嬢様エピソードで覚えていない。

 

 私はショックを受けるというより、笑ってしまった。自分が多少お嬢様育ちなのは認めるが、浮世離れできるほど甘い世間ではなかったし、観劇はただの趣味だし、弁護士の父親に責められて生きてきた私からすれば、ドクターの考えるきつい言葉なんて歯牙にも掛けないレベルである。っていうか、己からすれば観劇する奴は皆現実逃避してるのか?

 

 笑うしかなかった。私をかなりのレベルで理解してくれていると思ってた人は、実は全然私のことを理解していなかったのだ。

 

 同時に怖くなった。

 

 なぜ私に何かしらの好意を抱く男性はー父親を含めてー私に成長しないでそのままでいて、と思うのだろう。

 まるで私が花やお菓子に囲まれて生きてきたマリーアントワネットかのように、大人になることに苦い顔をしてホワホワしてそのままでいて欲しい、と願うらしい。

 

 わからない。でもどうも、私はそういう男性を惹きつけやすいらしい。

 

 かつて大学生時代の彼氏は高校生時代の私を神聖なものみたいに考えていて、成人している私に制服を着せたがった。

 それがただの性的嗜好ならまだマシだったと思う。でも彼は、その性癖の中に、いつまでも若くて可愛い君でいて、という思考回路を持っていた。悪い言い方をすれば「いつまでも若くて(おバカで)可愛い(下に見れる)君でいて」という意味が含まれていることを、私は見逃さなかった。

 

 私は精神的にも肉体的にも歳をとっていく。できることなら綺麗に歳を重ねて、年相応の精神的な美しさを持って生きていきたいと、大学生の頃からぼんやりと思っていた。たくさんの辛酸を舐めて、私は大人になるのだ。いつまでも子供でいてほしい、という人とは一緒にいられない。

 

 しかし残念ながら、私に気を持つ男性はどうも私に幼いままでいて欲しいらしい。

 やっぱり男性と付き合いを持つことは難しいな、と再確認させられた、ドクターとの別れでした。最後まで謎。

 

 混乱しまくってるドクターに「また下に下がって苦しいとき、戻ってくればいいよ」みたいなこと言われて、呪いの言葉だな、と思い2度と戻らねえよ、と誓いました。

 あなたのところに戻っても、元の木阿弥だもの。別れるべき人とは、スッキリキッパリ別れるべきですね。

 今回は気付いてからわりと早く決断できた、そんな自分を褒めましょうか。

 

 

カピーのようにマイペースに楽しく生きていくよ